「うるせぇな・・・」19回目だ。今コンサドーレがちょっとしたチャンスを迎えていたのだった。結局ボールはゴールラインを割る。ゴールキック。
試合内容はあくびの出るほど退屈なものだった。前半早々にマリノスのFWウィルがフリーキックを直接決め、0−1でマリノスがリードしている。それ以降はお互いに対したチャンスも無く、ただだらだらと時間を浪費しているように見える。お目当ての一人だった中村俊輔は、イタリア移籍が決まってチームを離れていし、日本代表の松田や波戸もミスをしているが、それ以上にコンサドーレはミスをしていた。デコの広いキャプテンはボールを奪ってもパスミスをしているし、FWはまともなポストプレイになってない。他の連中もさほど変わらず、まともなのは10番つけているボランチとGK、それに外国人くらいなもんだ。心なしか、横で騒いでいる連中もトーンダウンしている。中には元気なのもいるが、あと15分しかないのに、いい年こいてなにやってんだろうなと思った。
もういいか、帰るかな。出口は混むって聞いたし、ちらほらと帰る人の姿も見える。このまま試合は終わるだろうし、最後までいる義理もない。
決めかねているとまた大歓声が響いた。ドリブルで突っ込んできたコンサドーレの選手がペナルティエリアで倒されたのだった。「PKだ!」と大騒ぎするゴール裏の思いを断ち切るかのように、主審はイエローカードを出した。「今のでシミュレーションか・・・」少し彼にも納得のできかねる裁定だった。倒れた選手は抗議もせずに起きあがってまた戻っていく、淡々としていた。審判に食ってかからないのは中田みたいでちょっと格好良いかな、自分も今度そうしてみようか。確か去年のJリーグ新人王・・・自分とは6つしか離れていない若い選手。購読しているサッカー誌によると、攻撃的MFだったのに、監督にボランチ転向を言い渡された、可哀想な人・・・自分と少し重なった。
その時、背中を向けて戻っていく10番がこちらを振り向いた。一瞬だが目があった、そんな気がした。あんな遠くなのにそんな筈は無い。けど、10番の何か強い意志のようなものを感じた事に、彼自身ひどく驚いた。「最後まで・・・」消極的な理由で帰ろうとしていた彼は、さほど積極的とも思えない理由で行動宣言を撤回した。あの10番が何をするつもりなのか、ちょっと見てみたいと思ったのだった。帰ってもする事は無いし、チケットももったいない。このあたりの感覚は、全くもって中流家庭に育った子供らしい考え方だった。
残り5分。マリノスの攻勢が続いている。得点したウィルに代わって入った、移籍してきたばかりという選手がコンサドーレゴールを脅かしているらしい。反対側のゴール付近で試合が進むため、あまりよく見えない。時折ボールを奪って攻めようとするコンサドーレのボールは、だいたい中盤でカットされていた。その度にあの10番はボールを奪いに行く。その繰り返し。「ああ、惜しい」いつの間にか、彼の目は10番の動きを追っていた。
あと3分。ロスタイムが表示された。札幌の声援はもう悲鳴に近い。だが、20回目の「うるせぇな」は生まれなかった。彼は今や、自分でも不思議に思うくらい目の前の試合に引き込まれていたのだった。TVでリーガエスパニョーラを見て、ラウル擁するレアル・マドリードのゲームを見ていても、こうなったことは無い。固唾を飲んでピッチに視線を送り続けている。
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